農薬を使わずにお米が作れる「アイガモ農法」をご存知ですか?アイガモを田んぼに放つことでさまざまなメリットが生まれ、環境にも人間にもやさしい稲作ができると注目されています。今回は、アイガモ農法とはどんなものか、メリット・デメリットとともに解説します。アイガモが育てた美味しいお米も併せて紹介するので、参考にしてみてくださいね。
アイガモ農法とは
アイガモ農法(合鴨農法)とは、田んぼにアイガモを放つことで、除草・防虫・稲の生育促進などの効果が得られ、農薬や化学肥料を使わずに稲を健やかに育てられる方法です。
田植えが終わった6月頃、田んぼにアイガモのヒナが放たれます。アイガモの数は、田んぼ1アールあたり15~20羽。そこから約2ヶ月間、アイガモたちは田んぼの中を自由に泳ぎ回り、雑草や害虫を食べ、排泄物を稲の肥料として供給します。
8月になるとアイガモたちは田んぼから上がり、8月中旬には田から水が抜かれます。秋を迎えると、いよいよ稲の収穫時期。こうして、アイガモと農家さんが一緒に育てた美味しいお米ができあがります。
ちなみに、アイガモとはアヒルと真鴨をかけ合わせた交配種。食用としても高い需要があり、鴨南蛮そばや鴨ローストなどの料理に用いられます。アイガモ農法は、アイガモの飼育も同時に行うため、水稲栽培と畜産の両方の性質を備えているのです。
アイガモ農法を始めたのは豊臣秀吉?
アイガモ農法の起源は古く、安土桃山時代に豊臣秀吉が水田に鴨を放ったことが始まりだといわれています。当時は、水田から鴨が飛び立つ音で敵の襲来を知るという目的もあったのだとか。その後、鴨からアヒルに代わり、より水稲耕作に適したアイガモが役目を引き継ぎました。
アイガモ農法のメリット
アイガモ農法には、さまざまなメリットがあります。まずは、アイガモが果たす役割についてみていきましょう。
アイガモが頑張る4つのこと
・雑草を食べる
・害虫を食べる
・水を循環させる
・肥料を供給する
アイガモが田んぼの中に生える雑草や、稲にダメージを与える害虫を食べることで、除草剤や殺虫剤などの農薬を使わずに稲を育てることができます。
また、アイガモの排泄物は天然の肥料となって稲の成長を助けるため、化学肥料も使う必要がありません。
さらに、アイガモが田んぼを泳ぎ回ることで水が循環し、水温が一定に保たれるとともに、取り込まれた酸素が稲の成長を助けます。アイガモは稲をつついたり、体をぶつけたりすることもありますが、こうした接触刺激は稲を丈夫にし、茎が太く根張りの良いたくましい稲が育つのです。
農家さんへのメリット
近年は、有機栽培・無農薬・減農薬のお米が好まれていますが、農薬を使わずに稲を育てることは容易ではありません。特に、炎天下での田んぼの草とりは過酷な作業。大変な思いをして育てた稲が害虫にやられてしまうことも多々あります。
こうした農家さんの苦労を軽減してくれるのが、アイガモです。しかも、アイガモにとって雑草や虫は立派な「ごはん」。まさにウィンウィン状態ですね。
農薬の使用は、農家さんの身体へダメージを与えることもあるので、農薬散布の労力だけでなく健康面での負担を減らすこともできます。
消費者へのメリット
消費者にとっての大きなメリットは、農薬や化学肥料を使っていないお米が食べられること。
通常のお米も農薬の使用量に規制があるので安全ではありますが、やはり無農薬だと気持ち的に安心できる方も多いでしょう。特に玄米のまま食べる場合は、無農薬だと嬉しいですね。
※アイガモ農法でも少量の農薬を使用している場合もあります。その場合は「減農薬」などの表示になります。
環境へのメリット
農薬が開発されてから、水田へ大量の農薬を使用し続けた結果、害虫だけでなく、不必要に多くの生物の命が奪われました。トンボや蛍などの昆虫、そして多くの鳥が集う田んぼの原風景は、今や姿を消しつつあります。
そんななか、環境への負担を軽減した「環境保全型農業」の実現が求められています。アイガモ農法も、そのひとつ。アイガモ農法は、農薬の使用量を減らすことで、虫や鳥などの生態系の維持に役立っています。
アイガモ農法のデメリット
環境にも人間にもメリットが多いアイガモ農法ですが、良いことばかりではありません。アイガモ農法には、いくつかのデメリットもあります。
・コストや手間がかかる
・アイガモが鳥獣に襲われることがある
・勘をつかむのに年数がかかる
ほとんどは、農家さんが抱えているデメリットですね。一般消費者にとってのデメリットとしては、「普通のお米より価格が高い」ということでしょうか。
アイガモたちは、田んぼの草や虫だけではお腹いっぱいにならないので、別にエサを用意する必要があります。また、アイガモがキツネやタカ、カラスなどの鳥獣に襲われないよう、田んぼにネットを張り巡らすことも必須です。
アイガモを田んぼに放つタイミング、そして田んぼから上げるタイミングを見極めるにも、相当の年数を要します。それでもなお、予想外のハプニングに襲われることが多いそう。
このように手間やコストがかかり、経験も必要なため、アイガモ農法で育てたお米は普通のお米よりどうしても価格が高くなります。また、少ない量しか出回らないので希少性もあります。
水田での役目を終えたアイガモの多くは食用となるため、これを「かわいそう」だと思う方も多いようです。アイガモが田んぼから逃げないよう囲いを張り巡らすことも、「かわいそう」だと言われる理由の1つかもしれません。
しかし、私たち人間はアイガモだけでなく、牛や豚、鶏などの肉を日常的に食べています。そして、ほとんどの畜産動物は、水田を遊泳するアイガモより、自由を奪われた環境で飼育されています。魚介類に対しても、人間の食用とするために養殖を行いますよね。さらに重ねると、食用のアイガモの多くは水田のような自然環境ではなく、養鴨場の中で肥育されています。
これらのことを踏まえると、アイガモ農法だけを「かわいそう」だと言うのは少し違う気がしませんか?
少なくとも、アイガモ農法を行う農家さんの多くは、アイガモを一緒に働く「仲間」として大切に思っています。アイガモ農法を始めてから田んぼへ通うのが楽しくなった、という農家さんも多いようです。役目を終えたアイガモとの別れは、誰よりも農家さんが一番辛いことでしょう。
アイガモが育てた美味しいお米おすすめ3選
アイガモ農法で作られた、おすすめのお米を3つ紹介します。アイガモが頑張って育てた美味しいお米を食べてみましょう!
1.アイガモ米(兵庫県産コシヒカリ)
こちらは、兵庫県朝来市で作られたアイガモ米。お米の栽培期間中、農薬や化学肥料は一切使用されていません。
アイガモ米は、環境や健康に配慮した生産方法・優れた食感や品質などの特性を持ち、法令遵守や生産管理体制も含めて基準をクリアした商品が対象となる「ひょうご安心ブランド」として認証されています。
朝来市の水田周辺は、コウノトリも姿を見せるほど自然環境に恵まれています。ベテラン農家さんとアイガモが協力して作ったお米は、「炊き上がりのツヤが良い」「もっちりしていて美味しい」「甘味があってお米だけで食べても十分美味しい」などと評判。
数量に限りがあるので、新米の季節を狙ってみてくださいね。
2.常陸小田米(茨城県産コシヒカリ)
常陸小田米は、茨城県・筑波山麓の清らかな水を使って栽培されたお米。通常のコシヒカリより甘味・香り・粘りが強く、ふっくら・もっちりとした食感が楽しめます。
アイガモたちの働きのおかげで、完全無農薬栽培が実現。このお米を作っている「筑波農場」の公式HPでは残留農薬の検査結果を公開していますが、すべての項目において「検出されず」となっています。
3.合鴨農法米 くまさんの力(熊本県産ヒノヒカリ)
こちらは、熊本県の広大な自然のもと、力強い太陽の日差しを浴びて育ったお米。大きめの粒と、しっかりした食感が特徴です。
栽培期間中は農薬を一切使わず、アイガモたちが害虫や雑草を頑張って除去してくれました。アイガモたちが田んぼを泳ぐ愛らしい姿は、地元の方々にも人気のようです。
アイガモが育てたお米を食べてみよう
アイガモ農法は、農薬を使わずにアイガモの働きによって稲を健やかに育てる人にも環境にもやさしい方法。アイガモたちがひと夏のあいだ頑張って育ててくれたお米は、いつものご飯よりきっと美味しく感じられるはず。ご興味のある方は、ぜひ食べてみてくださいね。
Written by yukari
通販で食品を頼んだ際、アイガモ農法米のチラシが同封されており、群れになって田んぼを泳ぐアイガモたちのあまりの愛らしさに釘付け。試しに注文してみたら、いつものお米よりとても美味しく感じられました。アイガモ農法は、失われていく日本の田畑の原風景を甦らせるための希望だと思います。この先もずっと受け継がれてほしいので、これからも毎年アイガモ米をお取り寄せします。
参考文献
*農林水産省HP,「特集1 とり(6)」
*萬田正治「農家の暮らしと環境を守る合鴨農法」