貧血に悩んでいる方は、食事を見直すと症状の改善に役立ちます。特に「鉄」は貧血との関わりが深い栄養素なので、積極的に摂りたいですね。この記事では、貧血に良い食事のポイントや、鉄を多く含む食品、1日あたりの鉄の摂取量の目安などを紹介します。薬やサプリメントに頼らず貧血を予防・改善したい方は参考にしてみてくださいね。
※この記事における「貧血」は、主に「鉄欠乏性貧血」を指します。
そもそも貧血の原因は?

貧血は、何らかの原因で赤血球やヘモグロビンの量が減少した状態です。
貧血には、以下の種類があります。
・鉄欠乏性貧血
・巨赤芽球性貧血(悪性貧血)
・溶血性貧血
特に多いのが鉄欠乏性貧血で、貧血患者の約90%を占めるといわれています。
鉄欠乏性貧血は、ヘモグロビンの構成成分である鉄が不足し、ヘモグロビンの合成が滞った状態。原因は、鉄の摂取不足や鉄の需要量の増加、鉄の喪失などです。
例えば、月経のある女性は経血とともに鉄が体外へ排出されるため、より多くの鉄を摂取する必要があります。また、鉄は成長期に需要量が増すので、しっかり摂取しないと鉄欠乏性貧血を招きやすくなります。
貧血を予防・改善するためには、自分に必要な鉄の量を知り、食事から十分な鉄を摂取することが大切です。また、過度なダイエットや食事制限、偏食により貧血を招くこともあるので、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。
貧血で動悸・息切れ・立ちくらみが起こる理由
ヘモグロビンは酸素と結合し、全身の細胞・組織へ酸素を運ぶ役割を果たしています。鉄が欠乏し、酸素の運搬役であるヘモグロビンが減少すると、十分な酸素を供給できなくなります。脳が酸欠状態になると、立ちくらみやめまいが起こります。また、動悸が起こるのは、酸素不足を代償するために心拍数を増やして多くの血液(酸素)を全身へ送ろうとするため。同じように、息切れは酸素不足を補うためにより多くの酸素を取り入れようと呼吸数が増加することで起こります。特に、運動時は骨格筋の酸素需要量が増すため、動悸や息切れが起こりやすくなります。
鉄の1日の摂取量の目安

鉄は、年齢や性別、月経の有無で需要量が異なります。下の表で、推奨摂取量を確認してみてくださいね。
年齢 | 男性 | 女性 (月経なし) | 女性 (月経あり) |
---|---|---|---|
0~5か月 | 0.5mg (目安量) | 0.5mg (目安量) | ー |
6~11か月 | 4.5mg | 4.5mg | ー |
1~2歳 | 4.0mg | 4.0mg | ー |
3~5歳 | 5.0mg | 5.0mg | ー |
6~7歳 | 6.0mg | 6.0mg | ー |
8~9歳 | 7.5mg | 8.0mg | ー |
10~11歳 | 9.5mg | 9.0mg | 12.5mg |
12~14歳 | 9.0mg | 8.0mg | 12.5mg |
15~17歳 | 9.0mg | 6.5mg | 11.0mg |
18~29歳 | 7.0mg | 6.0mg | 10.0mg |
30~49歳 | 7.5mg | 6.0mg | 10.5mg |
50~64歳 | 7.0mg | 6.0mg | 10.5mg |
65~74歳 | 7.0mg | 6.0mg | ー |
75歳~ | 6.5mg | 5.5mg | ー |
妊婦 初期 中期・後期 | ー ー | +2.5mg +8.5mg | ー ー |
授乳婦 | ー | +2.0mg | ー |
身体の発達が著しい10~17歳は、鉄の需要量が増加します。特に月経が始まると、鉄の需要量に摂取量が追いつかず、鉄欠乏性貧血を起こしやすくなります。経血の量にも個人差があるので、経血が多い場合はより積極的に鉄を摂取しましょう。
また、妊娠中・授乳中も鉄の需要量が増加します。特に妊娠中は鉄の需要量が急増し、鉄欠乏性貧血を招きやすいので、妊娠前からの貧血予防が大切です。
鉄の摂取量の上限は?
栄養素のなかには、過剰摂取により健康障害が起こるものもあります。鉄も以前は「耐容上限量」が設定されていましたが、2025年からはなくなっています。これは、耐容上限量を設定するためのデータが不十分で設定を見送られたため。無制限に鉄を摂って良いというわけではありません。鉄を長期にわたって過剰摂取すると、鉄が臓器へ沈着して健康障害を起こす可能性があります。上記で紹介した推奨量を大きく超えるような摂り方は控えましょう。とはいえ、サプリメントや薬剤で多量に摂ったり、鉄鍋料理を多用したりしなければ、通常の食生活で鉄を過剰摂取することはほぼないでしょう。
鉄を多く含む食品一覧

鉄は、主に肉類・魚介類・豆類・海藻類などに多く含まれています。鉄を多く含む食品と、1食あたりの含有量の目安を下の表にまとめました。
食品 | 1食分の目安 | 鉄の含有量 |
---|---|---|
肉類 | ||
豚レバー | 50g | 6.5mg |
鶏レバー | 50g | 4.5mg |
牛ヒレ肉 | 100g | 2.8mg |
牛モモ肉 | 100g | 2.4mg |
馬肉 | 50g | 2.2mg |
魚介類 | ||
あさりの佃煮 | 20g | 3.8mg |
ごまさば | 100g | 1.6mg |
さんま | 100g | 1.4mg |
はまぐりの佃煮 | 20g | 1.4mg |
キハダマグロ | 70g | 1.4mg |
豆類 | ||
がんもどき | 2個 (約90g) | 3.2mg |
厚揚げ | 100g | 2.6mg |
レンズ豆(ゆで) | 50d | 2.2mg |
木綿豆腐 | 100g | 1.5mg |
納豆 | 1パック (約40g) | 1.3mg |
絹ごし豆腐 | 100g | 1.2mg |
いんげん豆(ゆで) | 50g | 1.0mg |
卵類 | ||
ピータン (あひるの卵) | 1個 (約60g) | 1.8mg |
うずらの水煮 | 5個 (約45g) | 1.3mg |
鶏卵 | 1個 (約60g) | 0.9mg |
野菜・いも類・果物 | ||
赤こんにゃく | 20g | 16mg |
じゃがいも | 1個 (約150g) | 1.5mg |
枝豆 | 100g (可食部50g) | 1.4mg |
小松菜 | 40g | 1.1mg |
ほうれん草 | 40g | 0.8mg |
ブロッコリー | 50g | 0.7mg |
アボカド | 1/2個 (約50g) | 0.3mg |
穀物・海藻・種実類 | ||
ライ麦パン | 100g | 1.4mg |
全粒粉パン | 100g | 1.3mg |
フランスパン | 100g | 0.9mg |
玄米(ご飯) | 1杯 (150g) | 0.9mg |
乾燥ひじき | 15g | 0.9mg |
かぼちゃの種 | 10g | 0.7mg |
ごま | 5g | 0.5mg |
食べ物に含まれる鉄の量をチェックするときは、現実的な摂取量を考慮することもポイントです。
例えば、「ひじきは鉄分が豊富」だとよく言われます。たしかに、乾燥ひじきは100gあたり6.2mgの鉄を含みますが、実際には乾燥ひじきを100gも食べるのは難しいですよね。水で戻せばボウル1杯分くらいになってしまいます。
このように、「鉄が多い食品を取り入れているから大丈夫」だと思っていても、案外摂取できていない可能性があります。
また、お米やパンなどの主食にも鉄は含まれているので、主食の量を極端に減らすと鉄の摂取量も減ってしまう点にも注意しましょう。玄米やライ麦パンのように、鉄を多く含むものを積極的に選ぶこともポイントです。
鉄の豊富な食材「赤こんにゃく」とは?
上記の表でも、ダントツで鉄の含有量が多かった「赤こんにゃく」。香辛料を除くと、100gあたりの鉄含有量が最も多い食材です。
赤こんにゃくは滋賀県の特産品で、名前の通り真っ赤な見た目が特徴。

この赤色に仕上げるために、「三二酸化鉄」という鉄の化合物を使用しています。赤こんにゃくの鉄の含有量は、同じ量の豚レバーの約6倍。特有の食感を楽しめるので、気になる方は試してみてくださいね。
ヘム鉄と非ヘム鉄は吸収率が違う?

鉄には、ヘム鉄と非ヘム鉄があります。ヘム鉄は肉類や魚介類などの動物性食品に多く含まれ、非ヘム鉄は野菜や海藻類などの植物性食品に多く含まれます。非ヘム鉄に比べて、ヘム鉄は吸収率が高いことが特徴です。
しかし、鉄の吸収率は、体内に存在する鉄の量にも影響されます。鉄の摂取量が少なく、体内の鉄の栄養状態が悪くなると、特に非ヘム鉄の吸収率が上昇します(*1)。
以前は、ヘム鉄(動物性食品)を積極的に摂ることが推奨されていましたが、近年は、非ヘム鉄(植物性食品)の摂取も貧血改善に効果的だと考えられています。
鉄を効率よく摂取するポイント
非ヘム鉄は、一緒に食べた食品にも吸収率が影響されます。非ヘム鉄の吸収率を高める食品を合わせると、鉄を効率よく摂取できますよ。
鉄の吸収率を高める食品

非ヘム鉄は、
・ビタミンC
・クエン酸
・動物性タンパク質
と一緒に摂ることで吸収率が上がります(*2)。
これらの成分を含む食品と、鉄を多く含む食品を一緒に摂ると、効率よく鉄を吸収できるでしょう。
ビタミンCは、ブロッコリーやピーマンなどの緑黄色野菜や果物に多く含まれます。果物にはクエン酸も多く含まれるので、鉄の吸収率のサポートに役立ちます。
植物性食品がメインの食事の際は、レモン汁をサッと加えるだけでも、鉄の吸収率を高める効果が期待できますよ。
鉄の吸収を阻害する食品

以下のように、鉄の吸収を阻害する作用をもつ成分もあります。
・タンニン
・フィチン酸
・食物繊維
タンニンは、コーヒーや紅茶、緑茶などに含まれます。食事の前後1時間程度は、これらの飲み物を控えるか、薄めに煎れるようにしましょう。食間であれば、通常の濃さで問題ありません。
フィチン酸は穀物に含まれる成分ですが、通常の食生活での摂取量なら影響は少ないとされています。しかし、過剰摂取により鉄の吸収が妨げられることもあるので、特定の食品ばかり食べるような偏った食生活は避けましょう。
また、亜鉛を長期にわたって過剰摂取した場合も鉄の吸収阻害を起こす可能性があります。サプリメントなどから大量の亜鉛を摂取することは避けましょう。
鉄製の調理器具を使うのもおすすめ

鉄製の鍋やフライパンを使うと、溶出した鉄が食品に移行することが知られています。調理器具の状態や調味料などにも左右されますが、アルミやテフロンの調理器具を使用した場合に比べて、鉄の含有量が1.5~2倍程度に増えるといわれています(*3)。
例えば、乾燥ひじきをステンレス釜でゆでた場合と、鉄釜でゆでた場合、100gあたりに含まれる鉄の量は以下の通りです。
ステンレス釜 | 鉄釜 |
---|---|
0.3mg | 2.7mg |
鉄釜で調理したものは、ステンレス釜を使った場合より9倍も多くの鉄を含みます。
手軽に鉄の摂取量を増やすためには、鉄製の調理器具を使うのも良いですね。
コンビニで手軽に鉄を補給できる食べ物・飲み物は?
コンビニで簡単に食事を済ませるとき、食品の選び方を工夫すれば鉄をしっかり摂取できます。まず、主食・主菜・副菜を揃えることを意識したうえで、以下のように鉄を多く含む食品を選ぶことをおすすめします。
1. レバー

レバーには、吸収率の良いヘム鉄が豊富に含まれます。豚レバーなら50gで6.5mg、鶏レバーなら4.5mgの鉄が摂取できますよ(*4)。
コンビニのお惣菜コーナーでレバニラやレバー煮、燻製レバーなどがよく販売されているので、探してみてくださいね。
2. あさりの佃煮

コンビニによっては置いていないこともありますが、あさりの佃煮は鉄を豊富に含むのでおすすめ。10個程度食べると、約2mgの鉄を摂取できます(*4)。
佃煮がない場合は、あさりを使ったおにぎりやパスタもおすすめです。
3. さばの塩焼き・味噌煮

さばの種類にもよりますが、1切れ(約100g)に1.2~1.6mg程度の鉄を含みます(*4)。さばには、造血に欠かせないビタミンB12も豊富に含まれるのが嬉しいポイントです。
コンビニのお惣菜コーナーで見つけられないときは、さば缶もおすすめ。さば缶は、100gで約2.0mgの鉄を摂取できます(*4)。
4. 枝豆

枝豆は、可食部100gあたりに約2.5mgの鉄が含まれます(*4)。タンパク質やビタミンC、造血に関わる葉酸も摂取できますよ。
枝豆はおつまみのイメージがありますが、食事に付け合わせると栄養バランスを整えることができるのでおすすめです。
5. 豆乳

豆乳200mLあたりに、鉄は約1mg含まれます(*5)。食事に合わせたり、おやつとして飲んだりすると、手軽に鉄が補給できますよ。
栄養補助食品を使うのもひとつの手
鉄の需要量が多くなる成長期や妊娠・授乳期は、必要な鉄を食事からまかなうのは難しい場合があります。食事から十分な鉄を摂取できない場合は、鉄が強化された食品やサプリメントなどで補うのもおすすめです。
鉄が強化された食品は種類も豊富なので、おやつ代わりに食べることもできます。選ぶ楽しさもありますね。
サプリメントなどを使う場合は、パッケージに表示された摂取方法を必ず守り、あくまでも食事の補助として活用してくださいね。
まとめ:貧血に良い食事とは

貧血は原因ごとに分類されますが、ほとんどの場合は鉄欠乏性貧血です。鉄欠乏性貧血を予防・改善するための食事のポイントを以下にまとめました。
- 鉄を多く含む食品を積極的に取り入れる
- 鉄の吸収を促進する食品を合わせる
- 食事の前後は鉄の吸収を妨げる食品を控える
- 主食・主菜・副菜の揃ったバランスの良い食事を心がける
- 偏食しない
特に非ヘム鉄は一緒に摂る食品に吸収率が影響されます。主食・主菜・副菜を揃え、さまざまな食品を取り入れると、非ヘム鉄の吸収率を高める作用のあるタンパク質やビタミンCなどを自然に摂取できるでしょう。
自分で調理する際は、鉄製の調理器具を使うのもおすすめです。また、食事だけで補うのが難しい場合は、サプリメントなども活用しましょう。
Writer:永田ゆかり
フードスペシャリスト
きれないの鉄は意識的に摂取しないと不足しやすい栄養素です。特に思春期や妊娠中は鉄欠乏性貧血が頻発します。また、日常的に激しい運動を行う場合も、細胞・組織の酸素需要量が増え、鉄欠乏性貧血を招きやすくなります。食事を見直すことも大切ですが、摂り場合はサプリメントなどもうまく取り入れましょう。
参考文献
*1 日本人の食事摂取基準(2025年版)
*2 佐々木雅也,田中雅彰,小松龍史編『エッセンシャル臨床栄養学 第10版』医歯薬出版, 2024
*3 細見亮太ら「使用年数の異なる鉄鍋を用いた調理中の鉄溶出量と鉄鍋表面の金属元素の化学状態」2013
*4 日本食品標準成分表 八訂 増補2023
*5 キッコーマン豆乳 公式サイト