トランス脂肪酸は、摂取量の低減が呼びかけられている成分ですが、そもそもなぜ「体に悪い」と言われているのでしょうか。この記事では、トランス脂肪酸とはどのような成分なのか、体に悪いと言われる理由や健康への影響について簡単に解説します。
トランス脂肪酸とは
トランス脂肪酸とは、その名の通り脂肪酸の一種です。脂肪酸は、脂質を構成するパーツのようなもの。例えば中性脂肪には3つの脂肪酸がくっついていますが、その中にトランス脂肪酸も混ざっているというイメージです。
そして、トランス脂肪酸には、天然由来のものと工業由来のものがあります。
天然型トランス脂肪酸
天然型のトランス脂肪酸は、牛・ヤギ・羊のような反すう動物の体内で、微生物の作用により産生されます。そのため、牛肉やラム肉、牛脂、乳製品などに含まれています。
通常の摂取量であれば、天然由来のトランス脂肪酸は健康への害は少ないと考えられています。
工業型トランス脂肪酸
一方、工業型のトランス脂肪酸は、マーガリンやショートニングなどの加工油脂を作る際に生成されます。また、サラダ油などを精製する際に200℃以上の高温加熱を行いますが、このときにもトランス脂肪酸が生じます。
このように、食品を加工する途中で作られた工業型のトランス脂肪酸は、一般的な脂肪酸と異なる作用を示し、さまざまな疾患を引き起こす可能性があると指摘されています。
トランス脂肪酸の健康への影響
トランス脂肪酸を多く摂取すると、以下のような影響があるといわれています(*1)。
・LDL(悪玉)コレステロールを増やす
・HDL(善玉)コレステロールを減らす
・動脈硬化のリスクを高める
・心血管疾患のリスクを高める
・肥満や糖尿病を引き起こす
・アレルギー性疾患のリスクを高める
トランス脂肪酸を多量に摂取すると、悪玉(LDL)コレステロールが増え、善玉(HDL)コレステロールを減ってしまいます。
悪玉コレステロールが増えすぎると、動脈硬化のリスクが高まり、さらに動脈硬化は、心血管疾患や脳梗塞など、さまざまな疾病の引き金になります。特に、トランス脂肪酸の摂取により冠動脈性心疾患のリスクが高まる可能性については、世界中のさまざまな研究で報告されています(*1)。
そのほか、トランス脂肪酸の摂取は、肥満・糖尿病などの生活習慣病や、アレルギー性疾患の発症との関連も指摘されています(*2)。
トランス脂肪酸はなぜ悪い?ほかの脂肪酸との違いとは
脂肪酸とは、脂質を構成するパーツのようなもの。脂肪酸は大きく分けて、「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2種類がありますが、トランス脂肪酸は「不飽和脂肪酸」の一種です。
一般的に、不飽和脂肪酸はLDL(悪玉)コレステロールを減らす作用などがあり「体に良い油」とされています。では、なぜトランス脂肪酸は体に悪いのでしょうか。
トランス脂肪酸の構造
まず、脂肪酸とはどのようなものかを説明します。下の図は、脂肪酸の構造を簡単に表したものです。
脂肪酸は、炭素が鎖のように連なった構造をしています。飽和脂肪酸は炭素がまっすぐ繋がった構造、不飽和脂肪酸は途中で折れ曲がった構造をしています。この折れ曲がったところは、炭素同士が二重結合をしている部分です。
通常の不飽和脂肪酸は「シス型」といい、二重結合を挟んで同じ側に炭素があります。シス型に対し、トランス脂肪酸は炭素と水素の位置が反対になります。
ほんの少しの違いですが、この差により、体内に入ったときにシス型とトランス型でまったく異なる作用を示します。
なお、牛や羊などの動物の体内で作られる天然由来のトランス脂肪酸は、体内で違う脂肪酸に転換されやすいため、健康への害が少ないようです。
1日何グラムまで?トランス脂肪酸の摂取量の目安
トランス脂肪酸の摂取量は、1日の総エネルギー摂取量の1%未満に抑えるように呼びかけられています。天然型のトランス脂肪酸も過剰摂取は良くないため、天然型・工業型の両方を合わせてこの摂取量を目安にしましょう。
総エネルギー摂取量には個人差があるので、下の表でトランス脂肪酸の摂取量の目安を確認してみてくださいね。
総エネルギー 摂取量 | 1,600kcal | 1,700kcal | 1,800kcal | 1,900kcal | 2,000kcal | 2,100kcal | 2,200kcal | 2,300kcal | 2,400kcal |
トランス脂肪酸 の摂取量 | 1.7g | 1.8g | 2.0g | 2.1g | 2.2g | 2.3g | 2.4g | 2.5g | 2.6g |
なお、成人の平均的な総エネルギー摂取量は、約1,900kcalです。どれくらいエネルギーを摂取しているか分からない場合は、トランス脂肪酸を2g未満に抑えるようにしましょう。
食品のトランス脂肪酸の量は、下の記事で紹介しています。
日本人はトランス脂肪酸の摂取量が少ない?
脂質摂取量が多い欧米人と比べて、日本人はトランス脂肪酸の摂取量が少なく、健康への影響はほぼないと言われています。
しかし、食生活は個人差が大きく、偏った食事をしているとトランス脂肪酸の過剰摂取につながる場合もあります。近年は食の欧米化が進み、日本人の脂質摂取量も以前より増加しています。
トランス脂肪酸だけでなく、飽和脂肪酸の摂りすぎにも注意し、バランスの良い食生活を心がけましょう。特に、糖質制限ダイエットをすると脂質の摂取量が増えやすいので、主食・主菜・副菜をバランス良くとる食事をおすすめします。
バターとマーガリンはどっちを選ぶべき?
バターに多く含まれる飽和脂肪酸を過剰摂取すると、トランス脂肪酸と同じようにLDLコレステロールを増やし、動脈硬化や循環器系疾患のリスクを高めてしまいます。
しかし、飽和脂肪酸より、トランス脂肪酸の影響の方が大きいともいわれています。また、飽和脂肪酸の中には、LDLコレステロールの増加に関与しない脂肪酸もあります。特にバターや乳製品に含まれる短鎖脂肪酸は、肝臓ですみやかに代謝されるため、血中コレステロール値に影響を与えないとされています。
マーガリンやファットスプレッドなどの加工油脂は、飽和脂肪酸の量が少なく健康に良さそうなイメージがあります。しかし、トランス脂肪酸のリスクを考えると、バターを選んだ方が健康維持に役立つでしょう。
近年は、トランス脂肪酸の低減に取り組むメーカーが増え、トランス脂肪酸ゼロのマーガリンやファットスプレッドも販売されています。バターの代用品として使うなら、トランス脂肪酸ゼロの商品を選ぶのがおすすめです。
トランス脂肪酸の摂取量に注意
この記事では、トランス脂肪酸の構造や健康への影響を簡単に説明させていただきました。
トランス脂肪酸は、過剰摂取により動脈硬化や冠動脈心疾患などの発症リスクを高める可能性があります。政府でもトランス脂肪酸の摂取量を減らすように呼びかけ、食品メーカーや消費者の意識も高まっています。トランス脂肪酸ゼロの食品も多く販売されているので、賢く選んでいきましょう。
参考文献
*1 農林水産省「トランス脂肪酸の摂取と健康への影響」
*2松沢 厚「トランス脂肪酸による毒性発現の分子メカニズムと関連疾患の発症予防」
・山内康生「食品中のトランス脂肪酸-乳脂質を中心に-」
・食品安全委員会「食品に含まれるトランス脂肪酸」