トランス脂肪酸と飽和脂肪酸は、どちらも過剰摂取に注意が必要な成分です。しかし、摂りすぎが体に良くないことは分かっても、両者の違いはいまいち分かりにくいですよね。この記事では、トランス脂肪酸と飽和脂肪酸の違いについて、分かりやすく解説します。
飽和脂肪酸
飽和脂肪酸は、肉や卵、バター、牛乳などの乳製品に多く含まれる成分です。
飽和脂肪酸は適量であれば健康上の問題はありませんが、多く摂り過ぎると、動脈硬化や脂質異常症のリスクを高める可能性があります。
そのため、飽和脂肪酸の摂取量は、総エネルギー摂取量の7%未満(約15g)に抑えることが推奨されています(*1)。
トランス脂肪酸
トランス脂肪酸は、食品の加工・調理にともなって生成される副産物です。マーガリンやショートニングのような加工油脂を作る過程、サラダ油などの精製、油の高温加熱などにより、トランス脂肪酸が産生されます。
また、トランス脂肪酸は牛や羊などの動物の体内でも自然に発生します。そのため、牛肉・ラム肉・乳製品などに天然型のトランス脂肪酸が含まれます。
特に工業型のトランス脂肪酸(食品の加工・調理によって生じるもの)は、心血管系疾患の発症リスクを高めるため、過剰摂取には注意が必要です。
トランス脂肪酸は、総摂取エネルギーの1%未満(約2g)に抑えることが推奨されています。
飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の違い
飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の違いを、一覧表でみてみましょう。特にポイントとなるのは、太字の部分です。
飽和脂肪酸 | トランス脂肪酸 | |
---|---|---|
多く含む 食品 | 肉・乳製品・卵など | 【天然型】 牛・羊などの肉や乳 【工業型】 マーガリン・サラダ油 ・ショートニングなど |
過剰摂取 による 主な影響 | 血中コレステロール増加 | 悪玉コレステロール増加 善玉コレステロール減少 |
1日の 摂取量の 目安 | 総摂取エネルギーの 7%未満 | 総摂取エネルギーの 1%未満 |
1.血中コレステロールへの作用
両者の大きな違いとして、飽和脂肪酸は悪玉・善玉コレステロールを両方とも増やすのに対して、トランス脂肪酸は悪玉コレステロールを増やし、善玉コレステロールを減らす作用があります。
善玉コレステロールは、体内で過剰になったコレステロールを血管から回収して肝臓へ戻す、いわば掃除役です。この善玉コレステロールが減ってしまうと、動脈硬化が進行しやすくなります。
つまり、飽和脂肪酸より、トランス脂肪酸のほうが動脈硬化を引き起こしやすいと考えられます。ただし、飽和脂肪酸の過剰摂取も、脂質異常症や動脈硬化の危険因子であることは同じです。
動脈硬化を起こすと血栓ができやすくなり、その血栓が心臓に詰まれば心筋梗塞などの心疾患を招きます。実際に、飽和脂肪酸・トランス脂肪酸のどちらも、過剰摂取によって心疾患の発症リスクを高めることは多数の研究で報告されており、確実な根拠があるとされています(*2)。
- 飽和脂肪酸は悪玉・善玉ともに増やす
- トランス脂肪酸は悪玉を増やし、善玉を減らす
2.摂取量の目安
1日あたりの摂取量の目安は、飽和脂肪酸が総摂取エネルギーの7%未満であるのに対して、トランス脂肪酸では1%未満とより厳しい数値になっています。
これは、飽和脂肪酸は過少摂取も良くないためです。
日本人を対象とした研究によると、飽和脂肪酸の摂取量が少なすぎると、脳卒中の発症リスクが高まる傾向がみられました(*3)。
現時点での結論として、「飽和脂肪酸は多すぎても少なすぎても良くない」とされています。
一方、トランス脂肪酸については体に必要な成分ではないため、1%エネルギー未満でも、可能な限り摂取量を低減することが推奨されています。
- 飽和脂肪酸は「摂らなすぎ」も良くない
- トランス脂肪酸は可能な限り摂取量を少なくする
トランス脂肪酸・飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸の違いは?
トランス脂肪酸と飽和脂肪酸の違いについては、何となく分かっていただけたでしょうか。しかし、脂肪酸と言えば「不飽和脂肪酸」もよく耳にする言葉ですよね。
不飽和脂肪酸は、飽和脂肪酸と対義語になる言葉です。脂肪酸をざっくり分類すると、まず飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分かれます。
そして、トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸に含まれます。
飽和脂肪酸 | 不飽和脂肪酸 |
---|---|
短鎖脂肪酸 中鎖脂肪酸 長鎖脂肪酸 など | オメガ3脂肪酸 オメガ6脂肪酸 オメガ9脂肪酸 トランス脂肪酸 など |
ここがややこしいところなのですが、不飽和脂肪酸は一般的には体に良い油だといわれています。
オメガ3脂肪酸は魚介類やアマニ油などに多く含まれ、血中中性脂肪を下げる作用などがあります。また、健康に良いといわれるオリーブオイルには、オメガ9系のオレイン酸(不飽和脂肪酸)が豊富に含まれています。
そんな不飽和脂肪酸のなかで、トランス脂肪酸だけ性質が異なるのは、ほかの不飽和脂肪酸と異なった構造をもつためです。この構造の違いが「トランス」という名前の由来でもあるのですが、体内でほかの脂肪酸と異なる作用を示し、結果的に疾病を誘発します。
脂肪酸については、以下の記事で詳しく解説しているので、ご興味のある方は読んでみてくださいね。
食生活のポイント
トランス脂肪酸・飽和脂肪酸ともに過剰摂取を避けるためには、バランスのよい食生活を送ることが最も大切なポイントです。
食事のバランスは、炭水化物50~65%、タンパク質13~20%、脂質20~30%が基本になります(*1)。1食分の量の目安として、お茶碗にご飯1杯、主菜は自分の握りこぶし程度、副菜は小鉢3~5杯分程度です。
主菜には肉だけでなく魚や大豆食品を取り入れ、副菜には野菜・海藻・きのこなどをたっぷり取り入れて食物繊維やビタミン・ミネラルも摂りましょう。
さまざまな食品を取り入れてバランスよく食べていれば、神経質になる必要はありません。肉の種類も牛肉・豚肉・鶏肉を偏りなく取り入れましょう。
まとめ
トランス脂肪酸と飽和脂肪酸は、どちらも摂りすぎると脂質異常症や動脈硬化、心疾患などのリスクを高めます。特に、トランス脂肪酸は悪玉コレステロールを増やすとともに、善玉コレステロールを減らす作用があるため、摂取量をなるべく減らすように意識しましょう。
特定の食品ばかり食べ続けたり、高脂質食を続けたりしない限り、それほど神経質にならなくても大丈夫です。何より、さまざまな食品を偏りなく食べることがポイントです。
Written by Yukari
動脈硬化や心疾患を予防するためには、抗酸化も重要なポイントです。野菜や果物には、ポリフェノールやビタミンCなどの抗酸化物質が豊富に含まれています。どうしても油っこい食べ物が止められない、という方は、野菜や果物を取り入れるのがおすすめ。疾病の進行予防に役立ちます。果物は果糖も多く含むため、1日200gを目安に、食べすぎにも注意してくださいね。
脚注・参考文献
*1 日本人の食事摂取基準(2020年版)18歳以上の男女における目標量
*2 農林水産省「トランス脂肪酸の摂取と健康への影響」
*3 国立がん研究センター「飽和脂肪酸摂取と循環器疾患発症の関連について」