肉を調理した際に、硬さやパサつきが気になることはありませんか?特に、安い肉や脂身が少ない部位はジューシーに仕上げることが難しいですよね。そこで今回は、肉が硬くなってしまう原因とともに、柔らかく美味しく調理する方法をご紹介します。部位ごとの最適な調理法もあわせて紹介するので、参考にしてみてくださいね。
肉が硬くなるのはなぜ?科学的な原因とは
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生の肉はとても柔らかいのに、火を通すと硬くなってしまうのはなぜでしょうか。それは、肉に含まれるタンパク質と加熱温度が原因です。
肉に含まれるタンパク質は、大きく以下の3種類に分けられます。
・筋原線維タンパク質
・筋形質タンパク質
・肉基質タンパク質(コラーゲンなど)
これらの中で、肉の硬さに関わるのは筋原線維タンパク質と肉基質タンパク質です。
筋原線維タンパク質は、加熱するとギュッと収縮して硬くなります。また、肉基質タンパク質の一種であるコラーゲンは、加熱することでゴムのように硬くなり、もとの大きさの2~3割ほどの大きさまで縮んでしまいます。
ステーキや生姜焼きなどを加熱したとき、肉がそり返ったり縮んだりすることがありますよね。あの現象は、これらのタンパク質の性質が原因です。
なお、筋形質タンパク質も加熱によって凝固しますが、豆腐のようなゲル状に固まるため、肉の硬さにはほとんど影響しません。それぞれのタンパク質が凝固する温度は、以下を参考にしてくださいね。
タンパク質の種類 | 凝固する温度 |
筋原線維タンパク質 | 45~52℃ |
筋形質タンパク質 | 56~62℃ |
肉基質タンパク質 | 60~65℃ |
部位によっても硬さが違う!肉の部位ごとの特徴
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肉を美味しく調理するためには、部位ごとの特徴を知っておくことも大切です。肉は部位によって含まれるタンパク質の割合や脂肪の量が違うため、食感や柔らかさもそれぞれ異なります。
部位 | 特徴 |
ヒレ | ・きめが細かく柔らかい ・脂肪が少なく淡白な味わい |
ロース | ・きめが細かく柔らかい ・脂肪が適度に含まれる |
スネ | ・肉基質タンパク質が多く硬い ・脂肪が少ない |
モモ | ・きめが粗く硬い ・脂肪が少なく赤身が多い |
バラ | ・線維や膜が多く硬め ・脂肪が多い |
ヒレやロースは肉質が柔らかく、焼肉やしゃぶしゃぶ、すき焼きなどに適した部位です。特にロースは適度な脂肪が含まれるため、ジューシーな味わいが楽しめます。
一方、スネやモモは脂肪が少なく、肉質も硬いため、長時間の煮込み料理が適しています。バラは肉質そのものは硬めですが、脂肪が多いため、ジューシーで濃厚な味わいが楽しめる部位です。
肉を柔らかくする方法
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肉の硬さは、主にタンパク質の性質が原因だということが分かりました。では、柔らかく調理するためにはどうすれば良いのでしょうか?ここからは、肉を柔らかくする方法について紹介します。
1.時間をかけて煮込む
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ビーフシチューや豚の角煮などを作るときは、時間をかけてじっくり煮込むと肉が柔らかくなりますよね。これは、肉基質タンパク質のコラーゲンの性質によるもの。コラーゲンは、水のない状態で加熱すると縮んで硬くなりますが、水とともに長時間煮込むとゼラチン化して柔らかくなる特徴があります。
このとき、加熱温度を65℃以上にすることがポイントです。コラーゲンは60~65℃だと収縮して硬くなり、65℃以上で煮込むと柔らかくなる性質を持っています。ふつふつと煮立つ程度の温度を維持し(80~90℃前後)、1~3時間ほど煮込みましょう。圧力鍋を使う場合は、30分~1時間程度でも柔らかくなりますよ。
そして、もうひとつのポイントがどんな肉でも煮込めば柔らかくなるわけではないということ。煮込んで柔らかくなるのはコラーゲンが関係しているため、コラーゲンを多く含むスネ・モモ・バラなどに適した方法です。
ヒレやロースのように、コラーゲンが少なく柔らかい部位にはほとんど効果がありません。これらの部位は、長時間煮込むことで肉汁が流失して美味しさが半減してしまうので、ほかの調理法を選びましょう。
なお、スネ肉やモモ肉などを煮込む際は、赤ワイン・酢・醤油などの酸性の調味料を加えるとコラーゲンの分解が促進されます。また、煮込む前に肉を焼いて表面のタンパク質を固めておくと肉汁の流失を防ぐ効果が得られ、パサつかずに美味しく仕上がります。
2.調味料に漬けておく
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肉の保水性は柔らかさや美味しさに深く関わり、保水性が高いほどジューシーな味わいになります。肉のタンパク質には等電点と呼ばれるpHがあり、このときに最も保水性が低下します。
等電点はpH5.5付近なので、これより酸性かアルカリ性にすればOK。日常的に使う調味料では、以下のものが酸性を示します。
・赤ワイン
・しょうゆ
・味噌
・酢
・料理酒
これらの調味料に加熱前の肉を1~2時間ほど漬けておくと、肉の保水性が上がって柔らかくなります。また、下味がしっかり付いて美味しく仕上がるのも嬉しいポイント。
アルカリ性に傾ける場合は、重曹を利用する方法が一般的です。300~400ccの水に重曹小さじ1程度を溶き、肉を2時間程度漬けておくと、柔らかい食感に仕上げることができます。
3.タンパク質分解酵素を利用する
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生姜やフルーツなどのすりおろしに肉を漬けておくと、柔らかくなるのはよく知られていますよね。これは、植物が持つタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の作用によるもの。
タンパク質分解酵素には、肉が硬くなる原因である筋原線維タンパク質や肉基質タンパク質を分解する働きがあります。そのため、加熱してもタンパク質が凝縮せず、肉の硬化を防ぐことができます。
タンパク質分解酵素は、以下の食品に多く含まれています。
・生姜
・キウイ
・パイナップル
・パパイヤ
・梨
・にんにく
・玉ねぎ
にんにくや玉ねぎには、タンパク質同士の結合を抑えて収縮を防ぐ効果もあります。
タンパク質分解酵素は高温で失活してしまうため、必ず加熱前の肉に漬けるようにしましょう。漬け込む時間は長いほど肉を柔らかくしますが、最も美味しいと感じられるのは20分程度だという研究結果があります(※1)。
4.叩く・切る・ミンチにする
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肉を柔らかくするには、物理的な攻撃も効果的。生姜焼きやステーキを作るときは、肉を叩いたり筋切りしたりしますよね。筋肉組織を切断・破壊することで、加熱による筋肉の収縮を防ぐ効果が得られます。
ステーキ用の肉なら、包丁の先でだいたい3~5カ所ほど、筋に対して直角に切り込みを入れましょう。脂身が付いている場合は、脂身と赤身のあいだに切り込みを入れると加熱時に縮みにくくなります。
また、スネやモモのように硬い部位は、フードプロセッサーでミンチに加工するのもおすすめ。筋繊維を細かく切ることで、硬い部位でも食感が良くなります。ミンチにする場合は、バラのような脂質の多い部位や牛脂などを一緒に加えると、ジューシーな味わいに仕上がりますよ。
肉が硬くなる原因を知って柔らかく仕上げよう!
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今回は、肉が硬くなる原因や、柔らかく調理する方法について紹介させていただきました。少しの手間とコツで、安い肉でも柔らかく美味しく調理することができます。ぜひ、試してみてくださいね!
参考文献
※1「キウイフルーツの豚肉軟化効果について」
参考文献
・大越ひろ,品川文子,飯田文子『新健康と調理のサイエンス』学文社,2020
・堤ちはるら「キウイフルーツの豚肉軟化効果について」日本家政学会誌 Vol. 45 No. 7 603-607, 1994
・山崎清子ら『新版調理と理論』同文書院,2003
Written by yukari
お肉を美味しく仕上げるために、今まで数々の実験をしてきました(自宅で勝手に)。文中で「キウイに漬ける時間は20分がベスト」だと紹介しましたが、私は5時間以上漬けたことがあり、生肉かと思うほど柔らかくなってしまったことがあります。お肉は柔らかければ良いわけじゃないと、そのとき学びました。