「肉の食べ過ぎは良くない」「魚は体に良い」などとよく言われますが、肉と魚は何が違うのでしょうか。今回は、肉と魚の成分・栄養価に焦点を当て、その違いについて解説します。
肉の成分・栄養価の特徴

牛・豚・鶏などの種類や部位によって多少の違いはありますが、肉はタンパク質を10~20%、脂質を5~40%程度含みます。
肉は良質なタンパク源で、人間に必要なアミノ酸をバランスよく含んでいます。
特徴的なのは、脂質です。肉の脂質の40%程度を飽和脂肪酸が占めています。
飽和脂肪酸は、過剰摂取により脂質異常症のリスクを高める成分です(*1)。脂質異常症になると、動脈硬化や循環器系疾患などを引き起こす可能性も高くなります。
そのため、飽和脂肪酸を多く含む肉の食べ過ぎは健康に良くないといわれているのです。
飽和脂肪酸の摂取量は、1日の総摂取エネルギーの7%未満に抑えることが目標です。総摂取カロリーが2000kcalの場合、飽和脂肪酸の量は15.6g(約140kcal)未満となります。
これは、脂質の多い和牛サーロインステーキなら90g、豚バラ肉なら100g程度ですが、鶏むね肉なら皮付きでも280g程度に相当します。飽和脂肪酸の摂取量を抑えるには、肉の選び方もポイントです。

魚の成分・栄養価の特徴

魚は、種類・季節・産地などにより脂質・水分量は大きく変動しますが、タンパク質は20%程度で比較的安定しています。魚も肉と同様に良質なタンパク質を含みます。
魚の脂質は、約60~80%が不飽和脂肪酸です。その中でも、DHAやEPAを多く含むのが魚の特徴です。
DHAとEPAはオメガ3脂肪酸の一種で、不足すると皮膚炎などを引き起こすことが知られています。また、DHAとEPAは虚血性心疾患の予防に効果的だといわれています(*1)。
肉と魚の最も大きな違い

肉と魚は、ともに良質なタンパク質を含むことや、種類や部位により成分組成が異なる点などで共通しています。
しかし、肉と魚の最も大きな違いは脂質にあります。肉は飽和脂肪酸を豊富に含むのに対し、魚は不飽和脂肪酸を多く含みます。
飽和脂肪酸は、過剰摂取により生活習慣病のリスクが高まるため、摂取量に注意が必要。一方、魚に含まれる不飽和脂肪酸(特にオメガ3脂肪酸)は、一般的に「体に良い油」といわれる成分です。
オメガ3脂肪酸は、血中中性脂肪・コレステロール値を下げる作用や、アレルギー反応の緩和作用があります。また、DHAは脳の正常な発達や認知機能をサポートする成分です(*4)。
肉と魚の脂質だけを比較すると、魚の脂質ほうが健康へのメリットが大きいといえます。健康維持のためには、肉ばかりに偏らず、魚も献立に取り入れてバランスよく食べることがポイントですね。
肉と魚の脂質は、融点(溶ける温度)の違いもポイント。肉の脂質は融点が高く、常温で固体です。一方、魚の脂質は肉より融点が低く、常温で液体。そのため、刺身のように生食しても、なめらかな口当たりが感じられます。また、肉より魚の脂質のほうが酸化しやすいという特徴もあるので、魚は保存方法に注意が必要です。特に、サバやイワシなどの青魚は酸化されやすいため、しっかり密閉して低温で保存しましょう。
肉と魚、健康に良いのはどっち?

まず前提として、肉と魚はどちらも適量を食べる分には健康に悪影響はありません。しかし、飽和脂肪酸を多く含む肉の方が食べ過ぎによるリスクは高いと言えます。
また、魚に含まれるDHAやEPAは肉にはほとんど含まれていません。いま、肉中心の食生活を送っている場合は、肉の摂取量の半分程度を魚に置き換えてみると健康増進に役立つでしょう。
とはいえ、魚も食べ過ぎると脂質や動物性たんぱく質の過剰摂取につながるので、適量を食べるよう心がけてくださいね。
腸内環境は肉や魚の摂取量に影響される

じつは、肉中心の食生活を長期間にわたって続けていると、肥満しやすい腸内フローラを形成するといわれています。一方、魚の油を継続的に摂取することで、太りにくい腸内環境の維持に役立ちます(*3)。
また、肉中心の食生活を続けると善玉菌の力が弱まり、糖尿病や肥満、免疫力の低下など、さまざまな問題を起こす引き金にもなります。
肉好きは赤ワインを飲むと良い?「フレンチ・パラドックス」とは

動物性脂肪を摂り過ぎると心臓疾患のリスクを高めることが知られていますが、興味深い研究データがあります。
ヨーロッパ各国の動物性脂肪の摂取量と、心臓疾患による死亡率を調査した結果、イギリス人とフランス人は動物性脂肪の摂取量が同程度なのに、死亡率はフランス人の方がかなり低いことが分かりました。
この理由のひとつとして、両国の赤ワインの消費量に大きな違いがあることが挙げられています。
つまり、フランス人は赤ワインをよく飲むため、その抗酸化作用により心臓病の発症が抑えられていることが分かったのです。
この研究結果は「フレンチ・パラドックス(フランス人の逆説)」と呼ばれています。肉を多く摂取しても、抗酸化作用のある成分を積極的に摂取すれば、疾病予防に役立つ可能性がありますね。
肉が好き、高脂肪食が止められない、という方は、食事に赤ワインをプラスしてみてはいかがでしょうか。
赤ワインに含まれるポリフェノール「アントシアニン」に
ついては、こちらの記事で詳しく紹介しています
結論!健康を維持するためには

今回紹介した内容を、以下にまとめました。
・肉の過剰摂取は疾病リスクを高める
・肉中心の生活を続けると肥満しやすい
腸内環境になる
・魚の脂質に含まれるDHA・EPAは
肉にはほとんど含まれない
・魚中心の食生活は太りにくい腸内環境
の維持に役立つ
・肉が好きな人は抗酸化作用のある食品
を取り入れるとgood
肉の過剰摂取は健康へ悪影響を及ぼすリスクがあるため、肉の摂取量は適量に抑えることが大切です。
一方、魚に含まれるオメガ3脂肪酸は基本的には体に良い作用を示しますが、「摂れば摂るほど良い」という訳ではないので、こちらも適正な摂取が大切です。また、魚の油は酸化されやすいので、保存にも注意してくださいね。
肉を食べ過ぎていると感じる方は、野菜や果物のように抗酸化作用のある食品を積極的に摂ることもおすすめです。
Written by Yukari
同じ牛肉でも、輸入牛に比べて和牛のほうが不飽和脂肪酸が若干多いようです。だから、和牛は口当たりが良いんですね。また、玄米と魚の組み合わせは腸内環境を良くするという研究もあります。玄米食を続けていると、動物性脂肪への嗜好性も低くなるのだとか。面白いですね!
注・参考文献
*1 日本人の食事摂取基準2020年版
*2 江崎 治ら「飽和脂肪酸の摂取基準の考え方」日本栄養・食糧学会誌(2007), 60巻1号
*3 Caesar R, et al. 「Crosstalk between gut microbiota and dietary lipids aggravates WAT inflammation through TLR signaling」
*4 青栁良平「ドコサヘキサエン酸(DHA)の血液脳関門通過メカニズムの解明」
*5 益崎 裕章ら「腸脳連関と生活習慣病」日本抗加齢医学会雑誌 Vol.14 No.6