精白米よりビタミンやミネラルを豊富に含む玄米は、美容や健康の維持に役立つことで人気の食品です。一方で、「玄米には毒性がある」という噂を耳にすることもあります。今回は、玄米に毒性があるのは嘘か本当か、その真相を突き止めたいと思います。玄米を安全に美味しく炊く方法も紹介するので、参考にしてくださいね。
玄米に毒性があると言われる理由は?
まずは、玄米に毒性があると言われるようになった理由から見ていきましょう。どのような成分が危険視されているのでしょうか。
1.「アブシジン酸に毒がある」説
玄米には、アブシジン酸という成分が含まれています。アブシジン酸は、玄米に限らず、さまざまな植物・藻類・バクテリアなどに含まれる植物ホルモンです。
このアブシジン酸が細胞内のミトコンドリアを損傷させるという情報が出回っています。ミトコンドリアとは、栄養素の代謝やエネルギー産生などを行う重要な場所です。
しかし、これはあくまでも高濃度のアブシジン酸溶液に細胞を浸した場合に起こることで、玄米を食べたくらいでは問題ないとの主張もあります。実際に、食品安全委員会でも食物由来のアブシジン酸は人体に影響しないと判断しています(*1)。
なお、アブシジン酸は玄米を浸水することによって減少するので、心配な方は浸水時間を長めにしてみてくださいね。
2.「フィチン酸に毒がある」説
玄米に含まれるフィチン酸に毒性がある、との噂もあります。
フィチン酸は、米ぬかに多く含まれる成分です。フィチン酸は、食品に含まれるマグネシウム・亜鉛・カリウム・鉄などと結合すると不溶化し、体内へのミネラルの吸収率を下げると言われています。
フィチン酸の存在によって玄米に含まれるミネラルが体内へ十分に吸収されないことはデメリットですが、フィチン酸そのものに毒性はありません。
なお、フィチン酸は小麦・大豆・トウモロコシなどさまざまな食品に含まれ、人体にも存在しています。また、近年はフィチン酸に抗酸化作用・血栓予防効果・抗がん作用などの健康効果があることも報告されています。
3.「玄米にはヒ素が含まれる」説
玄米に、ヒ素が含まれているのは本当です。ヒ素と聞くとドキリとしますが、野菜や果物、鶏卵、魚介類、海藻類など多くの食品にヒ素は含まれています。ヒ素は地球上のあらゆる場所に存在する元素なので、食べ物に含まれるのは仕方がないことです。
食品安全委員会では、食品由来のヒ素による健康被害の報告はなく、問題はないとしています。また、農林水産省でも「バランスのとれた食生活をしていれば、玄米を食べ続けても健康に影響はない」とコメントしています(*2)。
なお、ヒ素は玄米の外皮に多く含まれるため、玄米をよく研ぐことでヒ素の量を減らすことができます。また、七分づきや五分づきなどに精米することも、ヒ素の低減に効果的です。
4.「玄米の残留農薬が危険」説
「玄米には残留農薬が含まれるから危険なのでは」と心配する方も多いようです。確かに、米はぬか層に農薬が溜まりやすく、精白米より玄米は残留農薬を多く含むと言われています。
健康被害が出ないように、日本ではすべての食品に残留農薬の基準が設けられており、基準値を上回る食品は販売できません。玄米の残留農薬も基準値をはるかに下回るものが多いので、過度な心配は必要ないでしょう。
少しでもリスクを減らしたいと考える方には、有機栽培(オーガニック)の玄米を選ぶことをおすすめします。
ここまでのまとめ
・玄米は基本的に安全な食品
・ヒ素や農薬も健康被害の例はなく、問題ないとされている
・浸水や洗米でリスクを減らせる
・農薬が心配な場合は有機米を選ぶのがおすすめ
玄米の安全で美味しい炊き方のポイント
玄米は毎日食べても問題のない食品ですが、できればリスクを最小限まで減らしたいですよね。ここからは、玄米をより安全に美味しく食べるための炊き方のポイントを紹介します。
1.しっかり洗米する
しっかり洗米することにより、玄米の残留農薬やヒ素の量を減らすことができます。
精白米は傷つけないようにやさしく洗いますが、玄米はザルを使ってゴシゴシ洗ってOK。玄米の外側に傷が付くと、吸水しやすくなってふっくら美味しく炊き上がります。
2.浸水は8時間以上とる
浸水時間をしっかり設けると、アブシジン酸の量が減少すると言われています。また、フィチン酸を分解する酵素が活性化し、ミネラルとの結合を切るため、ミネラルの吸収率も上がります。
浸水時間は8時間以上を目安に行いましょう。夏場は腐敗する可能性があるので、冷蔵庫で一晩置いても大丈夫です。冬は常温でも浸水しにくいので、14時間ほど置くのがおすすめです。
毎回浸水させる手間を省きたい場合は、あらかじめ発芽させた状態で商品化されている「発芽玄米」がおすすめです。発芽玄米は食感も柔らかく、普通の白米と同じように炊飯できるので便利ですよ。
結論!玄米に毒があるかどうかの真相は
「玄米に毒がある」は大げさな表現で、嘘であると言わざるを得ません。しかし、アブシジン酸やフィチン酸の影響が心配な方は、浸水時間を長めにする、丁寧に洗米するなどの対処法をとってみてくださいね。また、農薬が心配な方は、有機栽培の玄米を選ぶこともおすすめです。
Written by Yukari
食生活アドバイザー。普段は玄米・白米・雑穀米から気分に合わせて食べています。「玄米に毒がある」という噂が広まってしまったのが悲しくて、今回の記事を書きました。日本人は長年玄米を食べて生きてきました。玄米から白米へ移行したときには脚気が流行したほど、玄米は栄養価の高い食品です。白米と玄米にはそれぞれ良さがあるので、ご自身の体質や体調に合わせて取り入れてみてくださいね。
参考文献
*1 食品安全委員会,米国環境保護庁(EPA)、植物調節剤、S-アブシジン酸の残留基準値設定免除に関する規則改定
*2 農林水産省,食品中のヒ素に関するQ&A
・小林勇気, 田中寛, 植物ホルモン・アブシシン酸の進化と機能, 化学と生物55巻(2017)4号