飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸、トランス脂肪酸など、言葉はよく見かけるものの、違いがよく分からないと感じている方は多いのではないでしょうか。そもそも「脂肪酸」とは何?脂質との違いは? そんな疑問を解決するため、この記事では脂肪酸について分かりやすく解説します。
脂肪酸って何?脂質と同じもの?
結論から述べると、脂肪酸は脂質の一種です。脂質にはさまざまな種類があり、その中に脂肪酸も含まれます。
また、脂肪酸にも多様な種類があり、一般的に「体に悪い」といわれる脂肪酸、健康維持に役立つ脂肪酸などがあります。
脂肪酸を理解するために、まずは、脂質がどのようなものかを見ていきましょう。
脂質とは
脂質とは、炭水化物やタンパク質と並ぶエネルギー産生栄養素のひとつです。脂質は体内に貯蔵され、必要に応じて分解されて、生きていくために必要なエネルギーを産み出します。
特に空腹時や運動時は多くのエネルギーを必要とするため、体に蓄えた脂質(体脂肪)の分解が促進されます。
ちなみに、脂質は「脂肪」や「油」と呼ばれることもありますが、基本的には同じ意味です。
脂質の種類
脂質には、
・中性脂肪(トリグリセリド)
・コレステロール
・リン脂質
・糖脂質
などの種類があります。
食べ物に含まれる脂質のほとんどは中性脂肪です。そして、体脂肪の大部分も中性脂肪から成り立っています。
中性脂肪は、「トリグリセリド」や「トリアシルグリセロール」と呼ばれることもあります。ちなみに、「高トリグリセリド血症」とは、血中の中性脂肪が基準値より多い状態です。
脂質の種類 | 働き・特徴 |
中性脂肪 | エネルギーの貯蔵 |
コレステロール | ホルモンや胆汁酸の成分 |
リン脂質 | 細胞膜や神経組織の成分 |
糖脂質 | 細胞間脂質や神経組織の成分 |
コレステロールは体に良くないイメージがありますが、性ホルモンや副腎皮質ホルモン、胆汁酸、ビタミンDなどの材料になる重要な成分です。
肌のバリア機能にかかわるセラミドは糖脂質の一種です。近年は、「グルコシルセラミド」という糖脂質が、肌の水分量を上げる作用を持つことで注目されています。
脂肪酸とは
脂肪酸とは、脂質を構成するパーツのようなものです。
中性脂肪(トリグリセリド)の場合、下の図のように、「グリセロール」という物質に脂肪酸が3個ついた構造をしています。
トリグリセリドの場合は3個の脂肪酸が結合していますが、1~2個の脂肪酸が結合した脂質もあります。また、体内にはグリセロールから離れた「遊離脂肪酸」も存在します。
脂肪酸にも種類がある
脂肪酸は多数の種類があり、さまざまな方法によって分類されています。どのような脂肪酸があるのか、分類方法とともに紹介します。
①長さによる脂肪酸の分類
脂肪酸は、長さによって
・短鎖脂肪酸
・中鎖脂肪酸
・長鎖脂肪酸
に分類されています。
脂肪酸は、長さによって吸収・代謝のされ方が異なります。
短鎖脂肪酸や中鎖脂肪酸は、すみやかに肝臓に取り込まれて代謝されます。一方、長鎖脂肪酸は「カイロミクロン」という物質に取り込まれ、リンパ管・血管をめぐってから、肝臓にたどり着きます。
そのため、長鎖脂肪酸の過剰摂取は血中中性脂肪値を上げる原因になります。一方、短鎖・中鎖脂肪酸はエネルギーに変換されやすく、血中中性脂肪値に影響しないといわれています。
column:カイロミクロン
カイロミクロンは、中性脂肪やコレステロール、リン脂質、タンパク質で構成された粒子です。カイロミクロンは血液をめぐり、全身の組織へ中性脂肪を運びます。カイロミクロンは全身をめぐる間に小さくなり、最終的に「カイロミクロンレムナント」という状態になります。このカイロミクロンレムナントは通常、肝臓に取り込まれますが、数が増えすぎると血管内膜に沈着しやすくなります。つまり、脂質の多い食事をとると、カイロミクロン・カイロミクロンレムナントが増え、動脈硬化のリスクが高まるのです。
②構造による脂肪酸の分類
脂肪酸は、長さだけでなく、構造の違いによって、
・飽和脂肪酸
・不飽和脂肪酸
に分類されます。
飽和脂肪酸は、おもに肉や乳製品に多く含まれています。飽和脂肪酸は、LDL(悪玉コレステロール)を増加させる作用があるため、摂取量の目安に上限が設けられています。
不飽和脂肪酸は、豆腐や卵、オリーブオイルなどに多く含まれています。不飽和脂肪酸には、LDL増加を抑える作用を持つもの、抗炎症作用や血栓予防効果を持つものなどがあります。
不飽和脂肪酸はさらに分類される
不飽和脂肪酸は、さらに
・一価不飽和脂肪酸
・多価不飽和脂肪酸
に分類されます。
一価不飽和脂肪酸はオリーブオイルなど、多価不飽和脂肪酸は魚介類やアマニ油などに多く含まれています。
ちなみに、近年よく聞く「オメガ3」や「オメガ6」は、多価不飽和脂肪酸の一種です。
column:「一価」「多価」ってなに?
脂肪酸は、炭素が多数連なった構造をしています。不飽和脂肪酸の特徴として、炭素が「二重結合」している部分を持ちます。この二重結合の有無で、飽和・不飽和も分類されています。脂肪酸の中に二重結合が1個あるものが「一価不飽和脂肪酸」、2個以上あるものが「多価不飽和脂肪酸」です。ちなみに、多価不飽和脂肪酸は「高度不飽和脂肪酸」とも呼ばれます。
脂肪酸の分類・種類の一覧表
ちょっと、ややこしくなってきましたね。ここで一度、脂肪酸の種類・分類を整理しましょう。
脂肪酸の長さによる分類 | ・短鎖脂肪酸 ・中鎖脂肪酸 ・長鎖脂肪酸 |
脂肪酸の構造による分類 | ・飽和脂肪酸 ・不飽和脂肪酸 |
冒頭でお伝えしたように、脂肪酸にはさまざまな種類があります。たとえば、オリーブオイルに含まれる「オレイン酸」や、魚に含まれる「EPA」「DHA」などです。
これらの脂肪酸の分類を、下の表にまとめました。
長さによる 分類 | 構造による 分類 | 脂肪酸の例 | 主な含有食品 |
短鎖脂肪酸 | 飽和脂肪酸 | 酪酸 | 乳製品 |
中鎖脂肪酸 | カプリル酸 | 乳製品 | |
長鎖脂肪酸 | パルミチン酸 | 肉・魚 | |
ステアリン酸 | 肉・魚 | ||
一価不飽和 脂肪酸 | オレイン酸 | オリーブ オイル | |
多価不飽和 脂肪酸 | リノール酸 | 豆腐・卵・ 植物油 | |
EPA | 魚 | ||
DHA | 魚 |
こちらに書いた脂肪酸はほんの一部で、もっと多くの種類が存在します。脂肪酸ひとつひとつの名前を覚える必要はありませんが、食品ごとに多く含まれる脂肪酸の性質を理解しておくと、栄養管理に役立ちますよ。
トランス脂肪酸とは
飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸と並んで、目にする機会の多い「トランス脂肪酸」。体に良くない油だと知っている方も多いと思います。
トランス脂肪酸は、「不飽和脂肪酸」の一種です。不飽和脂肪酸は体に良いイメージがあるので、少し意外かもしれません。
トランス脂肪酸は、マーガリンやショートニングのような加工油脂の製造中に生成されます。また、植物油を精製する工程でもトランス脂肪酸は作られます。
このように人工的に作られるため、本来の不飽和脂肪酸とは構造が異なるのがトランス脂肪酸の特徴です。
トランス脂肪酸を過剰摂取すると、LDL(悪玉コレステロール)が増加し、動脈硬化や冠動脈性心疾患のリスクが高まるといわれています。
トランス脂肪酸については、下の記事で詳しく説明しているので、気になる方は読んでみてくださいね。
必須脂肪酸とは
脂肪酸は、体内で分解されたり、合成されたりして形を変えていきます。例えば、体内では飽和脂肪酸の「パルミチン酸」から、不飽和脂肪酸の「オレイン酸」が作られます。
しかし、人間の体内で合成できない、または合成できても必要量に満たない脂肪酸もあり、これらは必須脂肪酸と呼ばれています。
・リノール酸
・α-リノレン酸
・アラキドン酸
この3つの必須脂肪酸は、食事から摂取する必要があります。DHAやEPAも必須脂肪酸に含める場合がありますが、DHA・EPAは、α-リノレン酸から体内で合成することが可能です。
脂肪酸の種類はさまざま
脂肪酸には多数の種類があり、分類方法もさまざまです。脂肪酸の種類によって、健康に及ぼす影響も異なるのが面白いところですね。
近年は、日本人の脂質摂取量が上がり、肥満や生活習慣病の増加が問題視されています。摂取する脂質の性質を意識すると、健康管理に役立ちます。ただし、どんな脂質であっても、多く摂ることで健康になるわけではないので、過剰摂取には気を付けましょう。
参考文献
・青山敏明「中鎖脂肪酸の栄養学的研究-最近の研究を中心に-」
・水谷尚「脂質代謝と高脂血症」